2001年6月30日放送 マーケット・ナビのポイント

1. フェデラル・ファンド金利推移
米連邦準備理事会(FRB)は、6月27日、前日から開催されていた連邦公開市場委員会(FOMC)にて、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%引き下げ、3.75%とした。今回の利下げは年初来、5回の0.5%の利下げに続く6回目で、累計の利下げ幅は2.75%となった。FF金利の誘導目標が4%を下回ったのは、1994年5月以来、7年ぶり。  0.5%の利下げを見込む市場関係者が半数近くいたが、今回0.25%にとどまったことで、8月21日の次回FOMCに0.25%の追加利下げを見込む見方が優勢となっている。株式市場は今回の利下げを比較的好意的に受け止めており、ナスダック総合株価指数は6月26日から28日の2日間で約60ポイント上昇、一方、金利市場はインフレ懸念がじょじょに台頭する中で、今回利下げ打ち止め感が出たことを受けて大幅に上昇、10年国債利回りはこの2日間で0.11%も上昇した。

2. FOMC声明文
以下は、FOMC声明文の主要部分。

「連邦公開市場委員会(FOMC)は、本日の会合において、フェデラル・ファンド金利の目標値を25bps引き下げて3.75%にすることを決定した。この行動に関連して、Board of Governorsは、公定歩合を25bps引き下げ3.25%にすることを承認した。今回のFOMCの行動により、年初来、フェデラル・ファンド金利の目標値は275bps引き下げられたことになる。

ここ何ヶ月で明らかになったパターン--すなわち、企業収益と投資支出の減少、消費の弱い拡大、そして海外景気の減速--は、引き続き経済に重くのしかかっている。これに伴う労働・生産市場への圧力の緩和は、インフレを引き続き抑制すると期待されている。

良好なトレンドが続き、生産性の向上と経済の長期的見通しを支えているが、本委員会は、物価の安定と持続的な経済成長というその長期的な目的と現在入手可 能な情報とを勘案し、リスクは、予見可能な将来において経済の弱さを惹起し得る状態に傾いている、と引き続き信じるものである。」
今回の声明文で特徴的だったのは、年初からの利下げ幅が2.75%になったことを殊更に強調している点である。これは、恐らく、今まで十分な金融緩和が実施されていることを強調し、今回の25bpsの利下げに対する失望感を和らげようとしたと考えられる。

生産部門を中心に減速感のある米国経済の中で、比較的好調とされる個人消費部門と住宅支出については、今回と前回(5月15日)・前々回(4月18日)とでは、言い回しが異ったことも気になる点である。前回・前々回は「消費と住宅支出は、最近では横ばいとなっているものの、相応に好調さを保っている(have held up reasonably)」としているが、今回の声明では「消費の弱い拡大(weak expansion of consumption)」と消費についてはネガティブ要因の一つとしてあげ、住宅についての言及はない。FRBが消費・住宅について弱気な見方に転じたのかどうかについては即断できないもの、今後のFRB高官の発言が注目される。

3.  米・個人消費支出(前年同月比)
グラフはGDPの7割弱を占める個人消費の前年同月比推移。3ヶ月移動平均で平滑化している。個人消費の伸び率は昨年3月の6.3%をピークに足許3.0%(最新データは4月分)まで急速な落ち込みを見せている。これは、1980年から直近までの伸び率の平均値3.3%をやや下回るレベルである。前年比3.0%を「依然高い」とするか「消費大国米国にしては低い」とするのかは見方が分かれるところであるが、少なくともクリントン政権以降の平均3.9%と比べるとかなり低い水準であることは間違いない。小売りや自動車販売等で激しい値引き合戦が繰り広げられていることが消費を下支えしている側面もあり、体力勝負となっている可能性もある。

前回の景気後退期における個人消費の落ち込みは約2年間も続き、その間、前年比伸び率は+4.5%から▲0.8%まで5.3%も減少している。経済環境が異なるので単純比較はできないものの、現在約1年間続いている消費の減速が更に続く可能性も否定できない。275bpsにも及ぶ金融緩和のタイム・ラグをおいた効果と7月から現れるとされる減税の効果が、個人消費にどの程度プラスになるのかが注目される。一方、今回の景気減速の中で消費者の貯蓄性向が高まるとの見方もあり、その場合は消費にとっては逆風となろう。

4. 米・新規住宅着工件数
グラフは新規住宅着工件数(季節調整済・年率換算後)の長期推移。これも3ヶ月移動平均。2000年夏を直近の底に上昇トレンドにある。これは、昨年の5月頃長期金利がピーク・アウトして低下局面に入りモーゲージ金利が下がったことに追随した動きである。また、周知のとおり、米国の住宅は金融資産にならぶ投資資産であり、株価の大幅な下落が代替的な住宅投資を促しているという側面もあるかも知れない。

クリントン政権前の景気後退期においては新規住宅着工も大幅に減じたが、昨年後半からの減速局面においてはほとんど影響を受けておらず、全体としては高どまっている。しかしながら、住宅投資はGDPの4%に過ぎず、この部門の好調が景気全体を下支えする効果は限定的である。

5. ドル・円相場
ドル円相場は、週明け25日(月)は124円台半ばで寄り付き、ポジション調整のドル売りが出て一時124円台を割り込む局面もあったが、ニューヨーク市場は124.50近辺に値を戻して引けた。26日(火)も持高調整は続き、日経平均が上昇したこともあり一時123円台前半まで値を下げたが、材料に乏しく揉みあいの相場となった。27日(水)はFOMCの結果待ちで基本的には様子見のなか、じわじわとドルが買われる展開となり再度124円台前半での取引になった。FOMCの25bpsの利下げ決定自体は為替市場にほとんど影響しなかった。しかし、翌28日(木)になると、株式市場と為替市場では前日の利下げを好感する見方が増え、また朝方発表があった日本の5月の鉱工業生産が前月比▲1.2%と非常に悪かったことから、円売り・ドル買いに勢いがつき、ドル円は124.99まで上昇した。しかし、このレベルでは輸出企業のドル売りも入り、黒田財務官が「円がファンダメンタルズを反映しなければ政府が行動を取る可能性もある」と述べたというニュースもあり、124円台後半でドルは上げ渋った。週末29日(金)の東京時間の朝方、塩川財務相が「速過ぎる円安は困る」と述べたことで、ドル円は124円台を割り込むレベルまで急落した。東京時間の夕方時点では124円台前半で推移している。

市場参加者の大半は再び円安を見込んでいるが、ドル円の頭は意外なほど重い。米国景気に対する不透明感が引き続き存在する一方、4月の円安局面でアジア諸国の声を背景にしたと思われる本邦当局からの円安牽制発言があったことに対する記憶が強いせいであろう。また、米国の輸出業者のドル高への不満が根強いこともドル買いを躊躇させる原因となっている。しかしながら、いったんドル買いに火がつけば、マーケットのポジションも軽いと見られることから、一気にドル高・円安が進行する可能性が高い。
来週の予想レンジは122円〜127円。