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第283回 2006年6月3日放送 六花亭製菓 小田豊 社長

北海道土産の定番・六花亭の『マルセイバターサンド』(しっとりとした二枚のビスケットの中にレーズンの入ったバターがはさんであるお菓子)。北海道・新千歳空港での人気商品ランキングで、もう一つの定番『白い恋人』と常にトップを争っている。しかし、『マルセイバターサンド』と『白い恋人』とではスタンスが違うと、六花亭の小田豊社長は言う。「『白い恋人』は観光客を意識して作られたものだが、『マルセイバターサンド』は地元で人気が出て、口コミでいつの間にか人気になった」ものだと言うのだ。

六花亭は創業時から地元を大切にしている。場所は北海道の十勝地方。工場も本社も全て十勝にある。しかし、その名は全国区。一番のヒット商品、マルセイバターサンドは、小田社長のお父様が六花亭を設立した1977年に、記念の菓子として誕生したもの。多いときで一日に40万個、年間75億円も売り上げている。お菓子業界では30億円売れれば大ヒットといわれる中での75億円。まさに大大ヒットである。

その六花亭では、売り上げのノルマや目標は設定していない。「売り上げが落ち込めば、お菓子が美味しくないという証拠。目的は売り上げではなく、あくまでも美味しいものを提供すること」と考えている。そのこだわりは工場内を見て回れば分かる。大量生産される中にも手作業の部分が残っているのだ。例えばドラ焼きの二枚の生地を合わせる工程。生地の周りを押さえる微妙な加減は人の指のほうが分かると、手作業で行われている。「手作業がいいのか機械がいいのか、迷ったら手作業にしている」そうだ。

「六花亭にドラ焼き?」と思われるかもしれないが、実は六花亭にはおよそ200種類の商品がある。しかも安い!シュークリームは60円、ショートケーキは160円、マルセイバターサンドは一枚105円。「我々はおやつ屋。地元の人がいつでも口に出来るおやつを提供したい」と創業以来考えており、そのため「価格設定は5円単位で決め、新商品になりそうなものでも値段が高くなってしまうものは採用されていない」という徹底振りだ。そして、こういったお菓子の中から、日持ちのするものが全国的に広がったのだ。六花亭の生菓子を食べたい人は北海道に行くしかない。

もう一つ、創業以来から貫いているのは『家族主義』。小田社長は約1300人の従業員の顔と名前を覚えている。小田社長にとって従業員は家族なのである。その象徴が六花亭の『一日一情報』という制度。これは従業員が、一日に何か一つの情報をメモにして社長宛に送るもので、その中身は「結婚します」・「旅行に行った」などプライベートなものから「異動させて欲しい」・「現場をこう変えたい」など仕事に関するものまで多岐に渡っている。一日に集まるのは600通、これら全てに小田社長は目を通す。午前中いっぱいかかることもあるというが、小田社長はここから社員の気持ちの変化、心の動きなどを読みとっている。そして、その中から100通を選び、社内新聞『六輪』に掲載する。これは単なる社内報ではない。19年間365日休刊日無しで、近々7000号を迎える。この『六輪』は従業員同士の理解を深めると同時に、小田社長と従業員とのコミュニケーションの場でもある。

六花亭には人事部がない。必要がないのだ。というのも全ての人事を小田社長が行う。「人事は劇薬である。だから人事の責任を取れるのは社長だけ」だからだ。よって、小田社長は毎日のように従業員の名前が並ぶ人事ボードを眺め、毎月のように細かな配置転換をしている。それだけではない。新入社員ばかりかパートの採用まで社長自身が面接を行う。小田社長がここまでこだわるのは、「モノ作りは人が生命線」であり「六花亭最大の財産」だからだ。小田社長は「十勝の人はもともと農耕民族。実直で粘り強い十勝の人は、菓子づくりに適している」と強調する。「都会の風はダメ。札幌で一度やってみたが、都会は消費の魅力はあるものの、生産者には適していない」と言うのだ。

そんな小田社長は、今の菓子業界を「ファッション化している」と危惧している。例えば「幻の〜」・「甘さ控えめの〜」・「限定商品」など、よく見かける枕詞は「自分の商品に自信がないという証拠だ」と見ている。「菓子には季節感はあるが、限定という言葉とはスタンスが違う」。更に「こういったやり方では長続きしない。あくまでも菓子屋は美味しいものを作るという本業に徹底すればよい」とおっしゃる。確かに、美味しいものはいつの時代も美味しい。

では将来、北海道を出ることは考えていないのか。答えは「NO」。「人材・お菓子の日持ち・地元の人に美味しいおやつを提供したいという想い・お菓子作りのスタンスなどを考えると、北海道にいるのが一番。大量消費の東京に行く必然性がない」からだ。

「地元の人がおいしいと感じなければお土産にはならない。なぜならばお土産とは自分が食べておいしいと思った自分の価値観を届けるものだからだ」と小田社長は考える。六花亭は、移り変わりの多い世の中で、これからも私たちをほっとさせてくれるお菓子作りを続けてくれそうだ。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 迷ったら手作業
  • 人事は劇薬、だから人事の責任が取れるのは社長だけ
  • 菓子づくりに最も適した十勝の人々
  • 人材・お菓子の日持ち・お菓子作りのスタンスを考えると、大量消費の東京に行く必然性はない
  • お土産は自分が食べておいしいと感じた、その自分の価値観を届けるもの
亜希のゲスト拝見

小田社長の経営哲学はとてもヒューマンです。「本業を大切にする」「人を大切にする」「地元の人に愛される美味しいお菓子を作る」。とても基本的なことかもしれませんが、人間はこういった大切なことから忘れてしまうのは何故でしょうか?

1300人の従業員の名前と顔が一致しているのですから、すごい。自分の名前を呼ばれれば、やっぱり嬉しいですし、背筋がスッと伸びます。小田社長はまだ名前を覚えきっていない人たちを食事会などに招きながら覚えていらっしゃるそうです。19年間、休刊日なしで社内報『六輪』を出し続けるのも至難の技。地道で、小さいことの積み重ねかもしれませんが、そこからできる山は大きく頑丈になっています。まるで、昔話の「ウサギと亀」のカメのような六花亭、だからこそずっと愛されているのでしょうね。

現在、六花亭は63店舗を展開していますが、それら全てが北海道内。北海道生まれで北海道育ちの小田社長。大学時代は東京、大学卒業後は修行のため京都の和菓子屋で3年間働いた経験から北海道を外から見る機会があったからでしょうか、北海道の魅力を大切にしていらっしゃる。

ということは、これからも北海道に行く人には「六花亭を買ってきて」とお願いしなければ、六花亭のお菓子は口に入らない。それはそれで、ちょっと楽しいです。とくに、東京では手に入らないシュークリームやショートケーキに興味があります。ということは、私が北海道に行かなければなりませんね。