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第269回 2006年2月25日放送 ロシアユーラシア政経研
隈部兼作 所長

ロシアのイメージが冷戦・旧ソ連・ゴルバチョフ時代のままの人は、今のロシアの変貌ぶりに驚くだろう。もう日本の資金や物資の援助を必要とはせず、日本に対等なビジネスを求めている。

BRICsの国々のなかで、ロシアは中国とインドに遅れをとっているように見えるが、ロシア経済は急成長を続けている。1999年以降、平均6〜7%という高い成長率を誇っており、外貨準備高も世界5位。もう昔のロシアではない。

そんなロシアの変貌ぶりを先読みしていたのが、ロシア・ユーラシアビジネス研究所の隈部兼作所長の祖父だった。隈部所長が高校に入学するとき、元外交官だった祖父に「第二外国語は何にするべきか」と尋ねたところ、「今は冷戦時代だが、お前が大きくなったときには国際情勢は変化し、日本とソ連(現ロシア)も変わっているから、ロシア語にしなさい」と言われた。それから旧ソ連を一人で旅してまわったり、大学卒業後に入行した日本輸出入銀行ではシベリア開発やペレストロイカ支援を手がけるなど、ロシアの第一人者としての経験を積んできた。そして、いつしか祖父の助言通り、冷戦は終焉し新しい大国ロシアが生まれ、世界経済に大きな影響力を及ぼし始めている。

隈部氏は年に何度もロシアを訪れロシアの変化を肌で感じている。「レクサスなどの高級車がバンバン売れ、なかには半年待ちの車もある」ほど、モノが豊かになっているのだ。モスクワなどの大都市圏では9割の人が「自分は中流階級」との認識を持っている。ロシア全体でも3割の人が中流階級に成長している(4〜5千万人)という。ニューリッチと呼ばれる大金持ちは1千万人以上、経済誌『フォーブス』によると、資産が10億ドル以上のロシア人経営者は30人いる。物資が足りず、長蛇の列をなしていたのは昔の話なのだ。

大国ロシアに復活させたのは、サウジアラビアに次ぐ世界第二位の産出量を誇る潤沢な石油資源。今やロシアの輸出の6割は石油・石油関連・天然ガスだ。国の財政赤字も、原油価格の高止まりで解消されている。

では、日本とロシアの関係はどうなっているのだろうか。日ロ関係というと、北方領土問題ばかりが耳に入ってくるが、実は日本企業は、急速にロシア市場に目を向け始めている。その一つの象徴がトヨタ自動車のロシア進出だ。ロシアの第二の都市・サンクトペテルブルクに工場を建設中で、投資額150億円は日本のメーカーとしては過去最高。既にロシアに進出し成功を収めている欧米や韓国企業の姿を見て、出遅れるな!と言う日本企業が増えてきているのだ。モスクワの商工会も3年前まで65社だったのが、今では150社に増え、隈部所長も「かつてはお通夜のように静まり返っていた商工会も、今では活気があり、みんなの顔色もよく、繁盛している印象を受ける」という。

しかし、日ロ間の貿易総額を見てみると、金額は増えているものの(2005年1兆1775億円で内6割は自動車の輸出)、全体に占める割合は僅か1%。中国は16%だから、その差は歴然としている。両国の経済関係はまさにこれからの段階と言えそうだが、では、ロシアとのビジネスを展開していくためにはどのようなところに留意したらよいのだろう。隈部所長からの実践的なアドバイス。

  1. 的確な情報を入手する・・・インサイダーを防止する法律のないロシアでは、政治と経済が密着している。大きな企業の裏には庇護者(大物官僚や政治家など)が付いるため、それが誰か調べることが大事である。今では透明性を高めるためにとオークション形式での入札も実施されるようになってきたが、この場合でも事前に取引がなされ、結果が決まっている出来レースも少なくないとのことなので、その点も注意しなければならない。
  2. 最後は法律・・・いい加減なようでいて、トラブルになれば最後は法律で攻めてくる。その為に、よい弁護士・よい弁護士事務所を探しておく必要がある。

また、資源大国ロシアは資源小国日本にとっては重要な存在だ。しかし、欧米は勿論中国やインドも交えてロシアのエネルギー資源の争奪戦が起きている。その中で、ロシアの資源を確保するにはそれなりの戦略が必要だ。隈部所長は「日本は一つのものをばらばらに考えるのではなく、もっと総合的なエネルギー戦略の絵を描くべき」と忠告する。

総合的な戦略の欠如を示す一例がサハリン(旧樺太)だ。石油と天然ガスの宝庫であるこの島では、日本の将来を担う巨大プロジェクト、サハリン1とサハリン2が進行中だ。サハリン2は三井物産・三菱商事・シェルなどが開発を順調に進めているが、1975年にスタートした国家プロジェクト・サハリン1は難航している。その理由の一つが輸送方法。サハリン2は石油をLNGに変えてタンカーで日本に運ぶ。サハリンと日本は地理的に近いおかげで、僅か2〜3日で届けられ(中東の場合は約2週間)、コストも安くて済む。しかし、サハリン1は、長大なパイプラインを日本まで敷いて輸送するというのが基本計画。非常にコストがかかり、事実上パイプライン計画は頓挫している。

そこに目をつけたのが中国。エネルギー需要が高まっている中国はロシアに急接近していて、ロシアは日本と中国を天秤にかけることができる状態なのだ。ロシア側は「よりよい条件の国を選ぶ。これはビジネスだ」と非常にビジネスライクな姿勢。この30年間で、官民合わせて1兆円以上もの資金がつぎ込まれたプロジェクトが泡として消えてしまうかもしれない。石油輸入の中東依存度が80パーセントまで上昇している今、日本のエネルギー戦略が問われている。

今年7月、ロシアでサミットが開かれる。世界に「大国ロシア」をアピールする絶好のチャンスだ。議長国ロシアの意気込みは並大抵ではなく、対外債務1兆4千億円を前倒しの返済も決めた。

では、今後のロシアの課題は何だろう?隈部所長はこう見る。

  1. 老朽化したインフラの整備が急務
  2. 過度にエネルギーに偏った経済構造の改革
  3. 経済発展に伴い所得格差が広がっている。社会的な不満の拡大も不安定要素。

21世紀最大の経済問題といわれるエネルギー。ロシアの世界への影響力は確実に大きくなりそうだ。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 世論調査ではロシア国民の9割が「自分は中流階級だ」と見ている
  • 高級車がバンバン売れている
  • インサイダー防止法のないロシアでは、政治と経済が密接な関係だ
  • 日本はもっと総合的なエネルギー戦略の絵を描くべきだ
  • ロシアが求めるのはビジネス
亜希のゲスト拝見

熱い冬のオリンピックが閉幕した。毎度のことだが、ロシアは大量のメダルを獲得している。とても印象的だったのは、選手達の表情。旧ソ連時代のように国という重い荷物を背負い、時には殺気立ってさえ見えた彼等の姿はもはやそこには無かった。ロシアは変わっているのだ。

話を伺って驚いたのは、ロシアがこんなにも変わってしまったのかということ。ロシアと言えば北方領土問題が真っ先に頭に浮かんでいた。領土問題がまったく進展を見せないが、その一方で、ロシアは大きな変化を遂げていた。確かに北方領土問題は大切な議題。でも、今のロシアの姿をきちんと知ることが大切だと感じたのは私だけでしょうか?

私はロシアに行ったことがない。いつかロシアを旅して、伝統的な絵葉書のような風景はもちろんのこと、スーパーマーケットに入ったりして、ロシア人の生活を垣間見たいと思うようになった。スパシーバ!!