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第258回 2005年12月3日放送 長谷工コーポレーション 岩尾崇 社長

バブル崩壊で巨額の負債を抱え、深刻な経営危機に陥った長谷工コーポレーション。株価も一時13円まで急落した。2度にわたる債務免除にも関らず、会社の再建は極めて難しいとみられてきた。

しかし、現在、長谷工コーポレーションは見事に再生を果たしている。この復活を成し遂げたのが岩尾崇社長だ。岩尾社長は旧・大和銀行(現りそな銀行)で専務まで努めた銀行マンだ。長谷工に移ったのは1998年。会社の財務状況について十分認識してはいたが、その実態は表面上の数字よりも極めて厳しいことをすぐに悟ったという。

今だからこそ話せるのだろうが、当時は「昼は再建計画策定の作業をしつつ、夜は会社更生法申請の準備をしていた」という。文字通り昼夜の区別なくフル稼働し、その緊張感も並大抵のものではなかったと思われる。

長谷工の再建への道のり、それは当時の金融不安と密接に関っていた。1999年にスタートした新再建計画では、取引銀行から総額4000億円近い金融支援を受け、15年間での再生を目指した。半年間も取引銀行を説得しての成果だった。しかし事態は急変する。2001年、金融庁が銀行の不良債権処理を加速させたことで状況は一変。約1500億円の金融支援を再び受ける代わりに、再生期間を15年間から3年間に大幅に短縮しなければならなくなった。この再建案の実現は極めて難しいというのが大方の見方だった。

こうした中、まさに「神風」が吹いた。マンションブームが起こったのだ!岩尾社長自身も「運にも恵まれた」と述べるように、再建計画への必死の取り組みにマンションブームの追い風が重なって業績は順調に推移。2003年3月期の決算では「債務超過の解消」を発表したのだ。1兆円超もあった負債は約1800億円まで圧縮した。今期の業績は売上高5900億円、経常利益500億円を見込むほどにまで回復している。

株価13円からの見事な会社再生・・・。結果だけみれば予想以上に順調だったと言えるが、その裏には岩尾社長の強力なリーダーシップがあった。旧経営陣に退陣してもらい、再建計画策定のためのプロジェクトチームを立ち上げた。このチームは「過去に縛られがちな役員や部長をほとんど排除し、中堅以上の社員11人を中心とした文字通りの特別チーム」だった。

過去のしがらみを断つことで、不良資産の売却や不採算事業からの撤退を断行したほか、公共工事のうち土木事業からは撤退することも決断した。その一方で、長谷工の強みである大型マンションに特化。展開するエリアも東京・名古屋・大阪の大都市圏に集中させた。その結果、現在では首都圏内の大規模物件のシェアは約40%にも達している。もちろん、これには用地情報の取得から設計・施工・販売・管理まで一貫して行うという長谷工の強いビジネスモデルがあってのことだ。

それでは現在のマンションブームはいつまで続くのであろうか?年齢別の購買層をみると、依然として30歳代が中心となっている。しかし、最近の特徴は50歳以上のマンション購入者が増えていることで、全体に占める割合はこの10年間で2倍に増えている。退職後に夫婦2人で便利な都市部のマンションに住み替えたり、社宅の廃止などでマンションを購入する人が増えていることなどが理由のようだ。また生前贈与に関する税制改正で、「団塊ジュニア・ネクスト」と呼ばれる20歳代の購入者も増えているという。岩尾社長は「まだ、このブームは続くだろう」と強気の見方を示した。

長谷工の取り組みで興味深いのは、こうした新規マンションの販売という謂わば「フロービジネス」だけではなく、既存のマンションに対して、どのような新しいサービスを提供できるかという「ストックビジネス」への取り組みにも力を入れ始めていることだ。

「不用品の買い取りサービス」もその一例だ。長谷工のスタッフが休日にマンションに出向き、入居者から不要となった生活用品を買い取る出張サービスを行っている。「家の中が片付いて嬉しい」「粗大ごみとして出す手間が省ける」などと入居者の評判も上々のようだ。買い取ったものは全て、長谷工が経営するリサイクルセンターに送られ店頭に並べられる。

使用期間の短いベビー関連用品から日用生活品まで品揃えは豊富で、大部分のリサイクル品は1か月間でほぼ売れてしまうという。長谷工では「利益率も高く、十分ビジネスとして成り立つ」と自信を覗かせる。

このほか、有料の老人ホームの運営や高齢者向けの介護サービスなど少子高齢化時代を見据えた「ストックビジネス」を今後、事業の大きな柱に育て上げていく考えである。

岩尾社長は長谷工を「真の優良企業」にすることを目指している。既にマンション市場でのシェアは18%とトップ。これを20%にまで高め中核事業の『強さ』を確固たるものにするという目標はもちろんのこと、『柔軟性』(環境の変化に柔軟に対応する)、『やさしさ』(隣人関係まで含めた広い意味での環境作り)が「真の優良企業」には必要だと考えている。会社再建を果たした今こそ、岩尾社長の「本当の攻めの経営」が始まろうとしている。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 当時、昼は再建計画、夜は会社更生法申請の準備をしていた
  • 我々がやったことは「選択と集中」という言葉では軽すぎるほど厳しいものだった
  • 過去に縛られたら抜本的な改革はできない
  • 客のニーズがあるところには必ず利益が出る
  • 「強さ」「柔軟性」「やさしさ」のある「真の優良会社」を目指す
亜希のゲスト拝見

実に穏やかに話をされる方・・・岩尾社長の第一印象だ。しかし、旧経営陣を総退陣させたというのですから、内に秘めている決意は並大抵ではないようです。それを外に出さないところに人間として大きさを感じます。

「過去に縛られていては改革など出来ない!」と熱く語っていらっしゃいましたが、普通の企業ではなかなか考えられないことです。だからこそ、新鮮で大胆な改革を導いていかれたのでしょうね。過去から大切なことを学びながら、それに縛られないようにしなければいけないのですね。

それにしても会社の再建は大変だったようです。「我々が行ってきたことを表現するのに、選択と集中という言葉では軽すぎる」とおっしゃっていました。大変なご苦労があったことと思います。

しかし、「今は社会的使命のあるこの仕事が面白い」と笑顔で語られていました。番組出演に同行された社員の方々も皆さんとても明るかったです。会社の勢いというものは、そうした社員の方々の表情から十分伺うことができるのだと実感しました。