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第243回 2005年8月20日放送 ネイチャーガーデン 木島正明社長

「昔のトマトを食べたい」、「取りたての甘いトウモロコシはないかな」などと、インターネットで直接、生産農家から注文する人が増えてきている。多少割高でも、おいしい野菜を食べたい人は確実に増えているからだ。そんな想いは日本国内の人だけではなく海外に住む日本人も同じ。そこに着目し、日本の新鮮な野菜をアジア中心に個人宅配しているのが『ネイチャーガーデン』だ。

この会社の設立は2003年と若い。経営者も今年30歳と若い木島正明社長。しかし、若いながらも、既に海外の食品を輸入・販売する会社やレストランを経営している実業家だ。起業のきっかけは、中国の残留農薬が問題になっていた頃に、たまたま香港に住む友人から「日本の野菜が食べたい」といわれ、日本の野菜の可能性を感じたからだ。

ネイチャーガーデンの事業内容は、香港を中心に会員600世帯へ毎週13品目もの日本の季節の野菜と卵を、1回6900円で販売していること。量は家族4人分。ちょっと高いように感じるが、それは航空運賃だけで価格の半分も占めているからだ。しかし、その分だけ付加価値も付けている。フードコーディネーターの資格を持つ社員が、発送する野菜を使った料理のオリジナル・レシピを添付したり、もし送った野菜が痛んでいたら、次の月には1品増やすなどのアフターケアをしている。

ただ、何といっても一番大切なのは野菜そのもの品質。会社を設立した当初は、料理をあまりやらなかった木島社長にとって、野菜といえばスーパーで売っている野菜だったそうだ。それが畑から採ったばかりの野菜を食べ、あまりの味のおいしさに「これを送りたい!」と考えるようになった。それから生産農家を歩き始め、協力をお願いして回った。しかし、多くの生産農家は自分たちの土地で取ったものはその土地で消化する『地産地消』を原則としており、輸入などもってのほかだったとのこと。しかし、度重なる訪問で説得し、今ではすぐに発送できるように成田空港の近くの生産農家を中心に140件あまりと契約し、季節に合わせた様々な野菜を海外に発送できるようになった。

海外に輸送する野菜は、傷みにくい根菜類だけではなく、レタスや白菜など傷みやすい葉物もある。しかも香港では宅配手段が日本のように発達していない。そこで野菜を入れる箱の中が7℃に保たれるように工夫を施した。また野菜を収穫する時期にもこだわっている。毎週金曜日に注文を締め切り、週明けに収穫を始め、トマトや葉物野菜は輸送当日に収穫する。そして翌日には香港の食卓に並ぶという流れ。われわれ日本に住む者と同じスピードで日本の野菜を海外で食べられるのだ。

もちろん障害も大きい。例えば税関の手続きを言われた通りにしていても現地で止められ、「日本語を中国語にしてくれ」などと言われ、商品を腐らせてしまったりなどのお国事情の違い。航空運賃が高くコスト削減がしにくい。また日系スーパーも多くアジアに進出しており競争がある。しかし、驚くことに価格はそういった現地の日系スーパーとあまり変わらないそうだ。むしろネイチャーガーデンの方がスーパーにはないアフターサービスを提供できる。しかも注文された分だけ送っているので、スーパーのように売れ残る心配もないとの独自性を持つ。

現在の顧客の95%が日本の駐在員。しかし、ビジネスを始めたころは全員が日本人だったことを考えてみると外国人の比率が高まっている。日本のみならず、海外でも食の安心・安全への関心が高まってきているのだ。特に富裕層が増えているアジアでは、食べ物にお金をいとわない人も多くなっている。日本のコシヒカリしか口にしない中国人もいるそうだ。そんな外国人の比率をいかに上げるかが、今のネイチャーガーデンの課題となっている。そのため、いままで日本語だけだったホームページに英語のホームページも付け加えた。シンガポールでは、宅配ではなく店頭に並べ、現地の人に日本の野菜を知ってもらおうとしている。安心・安全で質の高い日本野菜のブランドを上げようとしているのだ。

全国に目を向けると、実は日本は果物を中心に様々なものを輸出している。一例だが、青森のりんごは台湾や中国で人気、愛媛のみかんはカナダに輸出されている。石川県の油揚げはアメリカ、長野のえのきは香港、埼玉の納豆は韓国、静岡の緑茶はアメリカ・オーストラリア・ドイツなどに、鳥取の梨は世界中で人気だ。日本の食べ物は海外でこんなに人気だったのだ。木島社長も、そんな日本の食材の潜在能力に注目している。特に今、世界中のヘルシー志向から日本食が人気だ。

ビジネスとして利益を上げていくには、まだ工夫が必要のようだが、木島社長は「これからハワイやタイなど、様々な国で宅配をしていきたい」と考えている。日本政府も農林水産物・食品の輸出を5年で倍増する目標を立てている。日本ブームに乗り、日本の食材のブランド名が上がれば、海外転勤中も「日本のあれが食べたいな」と思うのは、おふくろの味だけになるかもしれない。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 日本の新鮮で安心・安全な野菜を求めている人は海外に多い
  • 航空運賃の高さを補う付加サービスが大切
  • 野菜を香港に届けるスピードは、国内とさほど変わらないく
  • 外国人の顧客はまだ5%程度。どこまで高められるかがポイント
  • 日本の食材は大変な潜在能力がある
亜希のゲスト拝見

私は中学時代に、父の仕事の関係でメキシコシティーに住んでいたことがあます。今はどうかわかりませんが、その前に住んでいたアメリカのような日本人街はもちろんなく、日本食はこの上ない贅沢品でした。時々出張できた人から日本のお菓子をもらえば、すぐに冷凍庫に入れ、何ヶ月もかけて食べました。ご飯のお供によく出ていたのが茹でたサボテンに醤油をかけたもの。母は「オクラに似ている」といい、私もそう思っていました。

要するに現地にあるものをアレンジするのが海外赴任の鉄則だったのです。それが今では日本のスーパーと同じスピードで日本の野菜が届くなんて信じられません。しかも生産農家から直接だということを考えると、日本の私たちよりもよいものを食べているかもしれませんね。

そんなことを可能にしつつある木島社長は、温和そうな、ニコニコ笑っている人。この人柄に生産農家は「わが息子のようだ!」という親心をときめかせているのではないでしょうか?また、この仕事を始めて料理もするようになったという木島さん。そのうち「木島式トマト料理」のようなレシピまで宅配の中に忍ばされるようになるかもしれませんね。

精力的に生産農家を回り、日に焼けている木島社長。ビジネスがブレイクし、かつての海外赴任者に「今行く奴は日本のものが食べられていいな」と羨ましがられるような時代もすぐ来るかも知れません。ぜひ頑張ってください。