「胃カメラ」の歴史


胃の中を見る
この画期的なことに人類が挑戦したのは19世紀半ば。
この時代、胃や肺などの内臓の病気は、手術でお腹を切り開かないと見ることはできませんでした。

「なんとか切らずに見ることはできないか・・・」

そこに挑戦したのは、ドイツの内科医、アドルフ・クスマウル。
彼はすでに、食道や直腸を観察するために筒に鏡をつけたものを使って病気の発見につとめていました。
そして、食道がんを発見することに成功していたのです。
すると今度は筒の長さを延ばして胃の中を見たいと考えるようになったのです。
しかし、筒の長さを延ばしたところで果たして人間の胃の中まで入れられるのだろうか?
ところがクスマウルは確信していました。まっすぐな筒であっても胃に挿入できる、と。
それは当時、ヨーロッパを巡業していた大道芸「剣のみ師」の姿を見ていたからです。
大道芸人はまっすぐな剣をスルスルと体の奥深くまで入れていたのです!

そして1868年、ついに胃の中を見るための道具、「胃鏡」が完成!
それは長さ47cm、直径1.3cmの金属製の管でした。
この胃鏡は確かに胃の中まで入れることができました。
しかし大きな問題が・・・
それは、明かりがなかったこと。胃の中を見るための光がなかったのです!
クスマウルはこの大きな難問を解決することができず、彼が考えた「胃鏡」もその後、普及することはありませんでした。

それから30年後の1896年。
同じドイツの物理学者、レントゲンがX線を発見。
体の中を透視して見ることが可能になりました。
今まで分からなかった体内の様々な様子が観察できるようになり医学は大きく進歩したのです。

しかし、X線撮影には限界がある。
医学界に、胃の中をもっと細かく観察したいという考えが現れ始めます。

1949年。当時の日本でも胃の中を見たいという医師達の欲求は高まっていました。
その一人が、東京大学附属病院の外科医、宇治達郎。
彼は、X線検査のように体の外から撮影するのではなく、胃の中に直接カメラを挿入して撮影するという当時としては非常に画期的な構想を生み出します。
その構想を打ち明けた相手は、当時、カメラに関して最高の技術を誇ったオリンパスの研究員、杉浦睦夫でした。
依頼を受けた杉浦はカメラの小型化に取り組みました。
そして試行錯誤の末、小型化はなんとか成功しましたが、やはりあの問題が立ちはだかったのです。
・・・明かり
ランプを限界まで小さくすることで、どうしても電球が壊れてしまい、胃の中を照らすことはできなかったのです。
そこで杉浦は、自動車のライトを作る電球メーカーに応援を依頼。
そしてついに・・・
たった直径5ミリで20回もの光を出す小さなランプが完成したのです。
こうして、日本人の開発による世界ではじめての胃カメラが完成しました。
太さは、食道の1.4cmのより細い直径1.2cm。その先端には、レンズがはまり、胃の中を明るく照らすランプも内臓されています。

そして、1950年。
初めて、胃の中の写真撮影に成功しました。胃の潰瘍部分が見事に写っています。
ここから胃カメラは胃の検査になくてはならないものとして急激に普及していくのです!
世界初の胃カメラは日本人医師の画期的な発想と技術者のたゆまぬ努力によってもたらされたのです!

「胃カメラ」は検査と治療が同時にできる!


胃カメラを使い続けて30年の榊信廣先生。内視鏡の名手でピロリ菌の研究でも有名な先生です。
榊先生:「胃カメラは、昔は診断するだけだったのですが、今では治療が中心になっています。出血を止めたりポリープを切ったり、胃がんの治療もします。」
つまり、内視鏡検査をしてポリープが見つかったら、その場で切ってしまえるのです。

ポリープが見つかったとき、一体どうやって切除するのか?榊先生に教えていただきましょう。
榊先生:「内視鏡の先端を口に入れていきます。このように親指で内視鏡をアングル操作をしながら観察していくのです。そして、鉗子口という所から治療をするための道具を通します。」
カメラと光源がついた内視鏡には道具を通すための穴も開いています。
ポリープを切るための輪になった細いワイヤーが出てきました。
これをポリープにかけます。
榊先生は手元でそのワイヤーを操作しています。
ワイヤーを引っ込めると、ポリープが自然に切れるようになっているのです。

こちらは実際の映像。左側にできているのがポリープです。
今、ワイヤーが引っ掛かりました。
そのままぐっと引き抜くと、ポリープが切り取られます。
ポリープだけでなく、胃の粘膜がえぐれて出血している胃潰瘍でも内視鏡は大活躍!
榊先生:「動脈性の出血は薬では止まらないのです。」
胃潰瘍によって動脈が破れて出血している場合、放っておくと貧血になるのはもちろん、出血量が多いとショック状態に陥ることもあるのです。
薬では止まらない動脈からの出血。これまでは緊急手術が必要でした。
現在は内視鏡を使って、小さな医療用クリップで出血箇所をつまみ、止血できるのです。
榊先生:「クリップで血を止めた瞬間に、真っ青だった患者さんの顔色が良くなったのです。これで患者さんが助かったと思いました。」

胃潰瘍による出血は、現在では、お腹を切って手術しなくても内視鏡での処置で済むことが多くなっています。
さらに、胃がんにおいても内視鏡は治療に大きく役立っているのです。
榊先生:「がんの部分だけ内視鏡でえぐり取れば、がんでも完治します。内視鏡でその部分だけ切りますと、後で全く後遺症が残りません。そういうことで、何歳になっても元気ですよ、あの時切ってもらって良かったですと言う方がたくさんいらっしゃいます。」
胃の病気の早期発見、早期治療に大きく貢献している内視鏡。
その直径が従来の11mmのおよそ半分にまで進化したものが、直径約6mmのもの。
口からではなく鼻を通して胃に入れる経鼻内視鏡です。
小さくなってもその映像は、口から入れたものと変わりません。
鼻の奥を通って・・・喉の奥を通っていきます。
この時、管が舌の根元に触れないため吐きそうになる苦しさが少ないというのが鼻からの内視鏡のいいところです。
胃に到達。あっ!ポリープがありました!

いまだに「胃カメラを飲む」という言い方で検査の定番となっている内視鏡は、今も日々進化を続けているのです!

カプセル内視鏡


身体の真ん中にあり、6mもの長さをもっている小腸。
          口からの入れる胃カメラも届かず、見ることはできません。肛門から入れる大腸スコープも届くのは小腸の出口付近がやっと。
つまり、小腸は上からも下からも診ることができない検査の難しい場所です。

そこで登場するのがカプセル内視鏡。
飲み込むだけで小腸の検査が簡単に行えるのです。
このカプセル内視鏡を医療現場で使っているのが松橋信行先生。
特に、ある症状の時にカプセル内視鏡はとても役に立つそうです。
松橋先生:「原因不明の消化管出血という領域です。黒い便や赤い便が出るのですが、胃の内視鏡をやっても原因が分からない、あるいは大腸の内視鏡をやっても分からないという時です。」
もしかして出血の原因は小腸にあるのかもしれない。
そんなとき、カプセル内視鏡を飲めば、このように小腸の中の写真を撮ることができ、その結果原因究明ができます。
薬と同じように口から飲み込むカプセル内視鏡。
飲み込んでから20分から1時間程で小腸に到達。
すると、1秒間に2枚、小腸の画像が体の外にある受信機に送られてくるのです。受信機の大きさは、お弁当箱程度。そこに膨大な量の映像が蓄積されます。
それを専用のコンピュータで解析。画像を連続で写すと、まるで映像のように見えるのです。

これは正常な小腸。出血もなく、腸の壁のヒダヒダもはっきりしています。
ところが、こちらは小腸に潰瘍があります。
粘膜の血管が拡張している血管拡張性の斑点。破れると出血を起こします。
そして、これが小腸のがん。小腸にあるべきヒダヒダがなくなり、壁がつるつるになっているのが特徴です。
松橋先生:「非常に大きな時代の変わり目だと思います。20世紀の最後の頃には小腸というのは暗黒大陸扱いだったのです。それが、カプセル内視鏡の登場で小腸検査が有用になりました。」

数年前まで暗黒大陸だった小腸の内部を鮮やかに映し出すカプセル内視鏡。
これからは、カプセル内視鏡での検査があたりまえになる時代がくるのでしょうか?

おくすりゼミナール『錠剤』


今週のテーマは「錠剤」。

錠剤の中身はどうなっているの?
教えてくださるのは、東京都学校薬剤師会 会長・田中俊昭さんです。
田中さん:「今回は錠剤を用意致しました。この錠剤は中がいろいろな状態になっていますので、一つの例として示しましょう。」
田中先生が、錠剤の模型を半分に割って見せてくれました!
例えば長時間効果が続くタイプの錠剤は、同じ成分が何層にも分かれています。
一番外側の層は、薬を外気から守っています。
二番目の層は、胃で溶けて効果を発揮。
そして、三番目の層は、小腸で溶けます。
このように錠剤は、層を分けることで、最長で12時間程度効果が続くなどの工夫されているのです。
昔の人がまっすぐな胃鏡を口から入れたなんてすごいですよね。でもこういった歴史があったからこそ、現在こんなに医学が進歩したんですね。
カプセル内視鏡は本当にすごいですね!昔の人にもこれを飲ませてあげたかったですよね。