アトピー性皮膚炎の歴史


「アトピー性皮膚炎」、昔から人々を悩ませ続けるこの病気は、歴史上、3人の医師によって定義づけられたとされています。
一人目は、フランスの医師、ベニエ。
1892年に彼は、子供のかゆみが出る原因不明の湿疹について研究を続けていました。
そして、「かゆみの出る湿疹は、ぜんそくなどといった症状と一緒に起こる」という共通点を見つけました。
ベニエは、この湿疹のことを「ベニエ痒疹(ようしん)」と呼び、医学的には、この報告が「アトピー性皮膚炎」の最初の記録であると言われています。

20世紀に入り、体内に異物が入ると体に変わった反応が起こることを「アレルギー」と呼ぶようになりました。
「アレルギー」の概念が広まってくると、喘息に対する考え方に医学的な変化がみられるようになります。
喘息も、異物に対する体の「反応の表れ」なのではないか?

その考えを示したのは、アメリカの医師、コーク。
彼は、喘息とアレルギーが遺伝によって起こりやすいことに注目しました。
1923年。その症状に対しコークは、ギリシャ語で「奇妙な」「変わった」という意味の「アトピー」という名前をつけました。
ここで初めて「アトピー」が病気の名前に使われたのです。

そして、さらに10年後、ついに「アトピー性皮膚炎」という病名が誕生します。

名付け親は、アメリカの医師、ザルツバーガー。
彼は、かゆみや炎症が起こる皮膚炎と喘息やアレルギー性鼻炎がお互いに深く関係していることに注目し、この皮膚炎を「アトピー性皮膚炎」と呼ぶことにしました。

しかし!この病気には大きな疑問が・・・
アトピー性皮膚炎と診断された患者のうち、およそ3割の人は皮膚炎だけの症状で、喘息やアレルギー性鼻炎は起こしていなかったのです。
ザルツバーガーは、「アトピー性皮膚炎」の名付け親でありながら、その疑問に対する答えを導くことはできませんでした。

「アトピー性皮膚炎」はアレルギーが原因なのか、そうではないのか、それ以降、医学界では、二つの考え方をめぐって研究が進められています。

なぜアトピー性皮膚炎になる?


カサカサの皮膚に赤い湿疹…、かゆくてつらいアトピー性皮膚炎の原因は?
九州大学病院皮膚科・古江増隆先生
「もともと皮膚の角質層がもろくて、バリアー機能が弱いことが原因です。」

バリアー機能が劣っている?それはどういうことなんでしょうか?
まずは皮膚のしくみを頭に入れておきましょう、
皮膚の一番外側には、角質層があります。
この部分の細胞は実はすでに死んでいて、表面は垢となってはがれ落ちていきます。
その死んだ細胞、つまり角質は常に20枚ぐらい重なっていて、その間にはセラミドと呼ばれる水分を保つ成分があります。
この角質とセラミドが、皮膚のバリアーの働きをしています。
アトピー性皮膚炎の人は、このバリアーが弱いのです。

そのため、汗や化学物質、紫外線など様々な外部からの刺激は、角質層の下にある生きている細胞にまで影響を及ぼすことになります。
すると、その刺激によって免疫細胞が、皮膚に炎症や湿疹を起こし始めるのです。

これが、アトピー性皮膚炎。バリア機能の弱い人が、外部の刺激からかかる病気です。

食物アレルギーや、家の中のダニやほこりなどのアレルギーはアトピー性皮膚炎をより悪化させる要因となっています。

アトピー性皮膚炎ができやすいのは、汗の溜まりやすい場所、顔、首、肘や膝です。
生後2週間から5才くらいまでの小さな子供に多く発症します。
でも、ほとんどの患者さんが成長するにつれて良くなっていきます。
古江先生:「バリアー機能が弱くても、身体はだんだん適応していきます。」

ただし、思春期になると、身体の急激な成長やストレスが加わり、再発することが多いのです。

さて、かゆくて辛いアトピー性皮膚炎を悪化させてしまう一番の原因は何だと思いますか?
それは、かいてしまうこと。
「かく」という行為が、弱っている皮膚のバリア機能をより弱めて、炎症を広げてしまうのです。
自分ではかいていないはずの赤ちゃん。赤ちゃんは口の周りの炎症がひどいのですが、
これは・・・、
古江先生:「赤ちゃんは、お母さんの乳房にこすりつけるため、顔に炎症と湿疹が出てしまうと考えられます。」

「たまらなくかゆい」というのがアトピー性皮膚炎の最大の症状。
しかし、かくと、バリアー機能はさらに低下。炎症がひどくなって、もっとかゆくなるからまたかく・・。この悪循環が問題なのです。

かゆみを強くしないための工夫


分かっていても、ついかいてしまうなど、かく習慣をやめるのはなかなか難しいですよね。
そこで、かゆみを強くしないための工夫を伺いました!
@入浴はぬるま湯で
・・・身体が温まると、眠りに就く時と同じで血行が良くなるので、かゆみが強くなります。入浴は、ぬるめのお湯で短時間にしましょう。シャワー浴の方が、ぬるめのお湯につかるよりも若干かゆみが少ないそうです。

A肌着は裏返して着る
・・・肌着の縫い目などの刺激が、かゆみを強くするので裏返して着るようにしましょう。そして、例えばウールなどチクチクする素材は皮膚を刺激してしまうので避けましょう。

Bアルコールを控える
・・・アルコールを飲むと、血行が良くなってかゆみを増すので控えるようにしましょう。香辛料などの刺激物も、血行を良くしてかゆみを強くするので避けましょう。

アトピー性皮膚炎で大切なのはスキンケア!


「アトピー性皮膚炎」、そのつらいかゆみを少しでもやわらげるために大切なのが、スキンケアです。

アトピー性皮膚炎にとって最大の敵となるのは、汗!
古江先生:「例えば、中学生などクラブ活動で汗をかいて帰ってきて、そのまま寝ると当然かゆくなります。
アトピー性皮膚炎の患者さんは、夜寝ている時にかいてしまいます。1日で症状が悪くなることがよくあるのです。」

汗をこまめに洗い流すことはとても大切。
ただし、タオルで皮膚をゴシゴシこすると、角質が壊れ、バリアー機能がより低下するので絶対にやめましょう。
せっけんは刺激の少ないものを使い、よく泡立てて汚れを包みこむように洗いましょう。
せっけんの成分が残らないように念入りに流すこともお忘れなく。せっけんが肌を刺激して炎症を悪化させることもあるのです。

汗を流した後は、保湿剤を塗って保湿を心がけましょう。
保湿剤にはワセリンや角質を軟らかくする尿素が入った軟膏、角質層にある成分・セラミドが入ったものがあります。
尿素やセラミドが入ったものは軟膏の他にも、さらっとした塗り心地のローションタイプがあります。

自分が使いやすいものを選び、使い続けることで、常に肌の水分を保つことが大切です。
古江先生:「ベースは、肌の保湿をきちんとしていることです。 ベトベト感が嫌な方は、ローションタイプもありますので、その人にとって使いやすい使用感のものがいろいろあります。 保湿剤を使えば、症状が良くなることが多いのです。」

汗を流し、保湿剤を塗る。スキンケアをすることがアトピー性皮膚炎の症状を良くするための第一歩なのです。

アトピー性皮膚炎のクスリ


皮膚が真っ赤になって、かゆくてたまらない・・・
ひどいアトピー性皮膚炎は、クスリを使った治療が必要です。

古江先生:「アトピー性皮膚炎の症状がひどくても、治癒に近い状態にすることが可能です。」

アトピー性皮膚炎のクスリには、肌に直接塗るものと、飲み薬があります。
中でも最も効果があるといわれるのが、ステロイド軟膏。
アトピー性皮膚炎のかゆみの元である炎症を抑え、かゆみをとってくれます。
でも、副作用が心配と言う方も多いでしょう。
古江先生:「それは、ステロイド剤を飲んだ場合と、塗った場合の副作用を誤解しています。」

ステロイドの飲み薬の場合、たくさん飲むと脾臓にたまり、糖尿病を引き起こしたり、骨がもろくなったりという副作用があります。
塗り薬の場合は毛深くなる、血管が浮き出るなどで、クスリを塗るのをやめれば副作用はおさまるといいます。
ステロイド剤の塗り薬は、効き目の強いものから弱いものまで5段階に分けられています。
症状に合わせて使い分けることができます。

アトピー性皮膚炎に使う塗り薬にはもう一種類、タクロリムス軟膏があります。
今から7年前に登場したこのクスリは、炎症を引き起こす細胞だけに作用して炎症とかゆみを鎮めます。副作用の心配もありません。

タクロリムス軟膏の効き目は、3番目に強いステロイド軟膏の効き目と同じくらいです。
アトピー性皮膚炎の患者さんの6分の1にあたる人がタクロリムスだけで劇的に効果を上げています。

アトピー性皮膚炎には、炎症とかゆみを抑える飲み薬もあります。
それが、抗ヒスタミン薬。
作用はそれほど強くないために、塗り薬の補助として使われることが多いのです。
このクスリを飲むと小腸で吸収されて血液中に入ります。そして炎症を起こす免疫細胞に働きかけて、その働きを弱め、炎症とかゆみを抑えるのです。

古江先生:「どんなクスリが合うのか、医師と相談することが大切です。」
アトピー性皮膚炎の治療は、かゆみや炎症の変化に合わせた薬の使い分けが大切です。
アトピー性皮膚炎はアレルギーが原因だと思っていたのですが、最新の研究ではそうでもないと言われているのですね。
アレルギー性鼻炎と喘息とアトピー性皮膚炎が一緒に起こる確率が高いというのには驚きでした。